ゲノム編集の夜明けと原発の末路 -遺伝子の核と原子の核-

チェルノブイリ救援・中部 機「ポレーシェ」関誌 N0171 2019.05.31から、河田昌東氏のコラムを掲載させていただきます。
    
    「ポレーシェ」のコラムはこちらに掲載されます。

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     ゲノム編集の夜明けと原発の末路
      -遺伝子の核と原子の核- 
     
 遺伝子の総体を表す「ゲノム」。今、これを人為的に壊したり入れ替えたりして、食料や医療の役に立てようという技術が沸騰している。生命の根幹をなす遺伝子を人間の欲望の為に操作し、もっと豊かな暮らしや長生きのために使おう…という技術だ。それは 1970年代に始まった「原子力」に未来を託そうという願望にそっりだ。あれから50年、未だに解決の目途も立たない放射性廃棄物問題や福島原発事故から、我々が学ぶべきことは何か。

 人間の欲望と経済発展

  全ての生物はそれぞれ固有の遺伝子の束 (ゲノム)を持ち、生態系の中で相互依存しながら生きてきた。それは、数十億年という長い進化の歴史でもある。その中で、人間は 突出した存在としてテリトリー(社会)や文化・産業を発展させ、自らの幸せを求め実現 させて来た。産業革命は物質的な欲望を満足させ、更なる豊かな暮らしを求め経済を発展させた。しかしそれは同時に、膨大なエネルギーと物質の消費でもあつた。化石燃料の多消費は地球温暖化をもたらし、大きな不安を抱える要因となった。「物質とは何か」という科学的探究心は、原子の構造を解明し、物質の根幹をなす「原子核」を操作すること で、戦争と経済による他国の支配も可能にした。だが、その結果もたらされる「核戦争の 脅威」と「放射性廃棄物」の問題は、70年以上経ったった今も解決できず、社会に核依存の暗い影を落とす。

 何故今、ゲノム編集なの?

 昨年11月 に、中国の研究者が「ゲノム編集でHIVに感染しにくい双子の赤ちゃんを 誕生させた」と公表して以来、それまであまり知られていなかった「ゲノム編集」は、俄 かにマスコミを賑わすようになった。厚労省などは、年内にもゲノム編集作物を商品化しようという。
 ゲノム編集は、細胞の核にある遺伝子を自在に操作し、美味しいトマトや筋肉もりもりの豚や魚などを作るだけでな<、 筋萎縮症など遺伝病の治療も可能と言われている。
 更に、提供者が不足している臓器移植 に使うために、人間の心臓や腎臓を豚の体内で作る研究も始まっている。
 こうした技術は、2012年に開発されたCRISPR/Cas9と いう技術の登場によって可能になった。
 Cas9は、目的とする遺伝子を自在に切断できる「遺伝子のハサミ」である。原子核を破壊(核分裂)したリプルトニウムを作ったりできる、中性子技術とそっくりである。だが、登場からわずかな時間しか経っていないこの技術には、当然様々な未解決の問題がある。
 その代表的な例が、「オフターゲット」と呼ばれる副作用である。簡単に言えば、標的外の遺伝子も傷つけてしまい、想定外の影響がもたらされる事である。その他様々な技術的問題はここでは省略する。
 こうした未解決の問題があるにも関わらず、政府と産業界は今、「それ行けゲノム編集」とばかりに大騒ぎである。昨年6月 15日、内閣府の「統合イノベーション戦略会議」前日に、安倍首相はこう言った。「今後、この技術を成長戦略のど真ん中に位置づけ、関係閣僚はこれまでの発想にとらわれない大胆な政策を、一丸となって迅速かつ確実に実行に移して<ださい」(週刊エコノミスト1月 22日号より )。 内閣府は、ゲノム編集の市場規模が今後600兆円になるとも予想している。
  「ゲノム編集の今」は、かつて原発が全国的に作られ始めた、1970年代の政治状況にそっ<りなのだ。未解決の問題には「そのうち何とかなるだろう」と目をつぶり、経済優先、金になるかならないかでことを判断する。この構造は今も変わらない。生命が金になる時代がやって来たのだ。だが、「操作の対象が生命の根幹の遺伝子」であることを忘れてはならな い。人間の傲慢さがもたらしたつけはいつか 必ずやって<る。 (2019年 5月 23日 河田)

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